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バーの世界への扉/The World Gin&Tonic〔Antonic〕

執筆者の写真: 中島 祐哉中島 祐哉

初めて訪れたバーとは誰にとっても特別な存在だ。


誰かに連れていってもらった人もいれば、勇気を出して自ら扉を叩いた人もいるだろう。そんな特別な経験の一助となるべく訪問レポートをお届けしているが、、今回はまさにバービギナーに向けて店づくりを行う、美しいカジュアルバーをレポートする。




目黒川に咲き誇る桜の名所、中目黒。

話題のカフェを求める若者から、グルメの虜となった大人たちまで幅広い世代で賑わうこの街に、昨年10月新たなアイコンとなるバーが誕生した。なんと日本初の「ジントニック専門店」だ。


ジントニックといえば、お店やバーテンダーの実力が反映されやすいと言われ、エントリードリンクとしての役目も務める定番カクテル。初めて行くバーでは「とりあえず」とオーダーする方も多いのではないだろうか。


そんなジントニックの専門店。筆者のようにあまりジンに詳しくない人が行っても大丈夫だろうか、、と一握りの不安を感じながら中目黒の街を歩いていると、そのバー「アントニック」は現れた。


到着すると、まずその店構えに驚き。山手通りからすぐ、車通りに面した1階の路面店であり、ガラス張りで店内の様子が外から伺える。一見バーには思えない、中目黒らしいオシャレなカフェや雑貨屋のような雰囲気だ。



入店すると、ブルーとイエローが印象的な爽やかな内装の店内。カウンター席とベンチ・テーブル席で15席程度となっている。

コートを受け取ってくれ、カウンター席に案内される。カウンターは銀の天板で、どことなく北欧のキッチンを連想させる。たまにはウッド・カウンターでないのも新鮮で良い。

カウンターの奥には100本以上はあろうかというジンのボトルたち。見たことのない銘柄も多く、さすが専門店の品揃え。

世界地図をイメージして配列されているジンボトル

席に着くと、ジントニック専門店というお店のコンセプトと、世界30カ国以上から取り揃えたジンを取り扱うことを説明してくれる。メニューはなんとInstagramからチェックするという最先端のスタイル。商品ごとの投稿ページにて、生産国や味・香りの特徴、作り手の想いなどが紹介されており、豊富な情報からチョイスが可能だ。

値段は税込800円、1000円、1200円の3種類のみであり、想像よりも手頃な値段で楽しめるようだ。


定番のTHE BOTANISTを初め選択肢は多いが、スカイブルーのボトルが可愛らしい、イタリアのMALFY ORIGINALEをジャケ買いでオーダー。

ジントニック専門のため、割り方を伝える必要がないのがまた新鮮だ。(なお、ロックやソーダ割りなど他の飲み方にも対応している。)


ボタニカルな香りにクセのない澄んだ味わいが心地よい、非常にスタンダードなジントニック。銘柄の由来はご想像の通りイタリアのアマルフィ。11世紀に現地で作られていた伝説のスピリッツをオマージュに、真空低温蒸留によって7種のボタニカルのアロマを生み出している。



フードはナッツなど簡単なおつまみの提供となっているが、ときおり他店とのコラボイベントを開催。話題のフードをジントニックとのペアリングでいただくことができる。なかなかバーではお目にかかれない、煮込みカレーやルーローハンとコラボする日もあれば、アップルパイなどのスイーツの時もあったようだ。

最新情報はお店のInstagramを要チェック。


 

ここアントニックは、バーが初めてという方にも利用してもらいやすいことをコンセプトに店舗作りを行っている。

ノーチャージ、税込表記といった価格面はもちろん、メニューは若い方に寄せてInstagramで入店前からチェックすることが可能。路面店の1階を選択したのも、初めての客が外から店内の様子がわかるようにという配慮の元でだ。


カフェ感覚で利用できるベンチ席。小物も可愛い。
北欧風のテーブル席ではゆったりと過ごせる

さらに驚いたことに、ジントニック専門店にした理由も「バービギナーのため」だという。


ジントニック専門店であれば、バービギナー天敵とも言える「飲み方はどうしましょう?」というやり取りが必要なく、ジンを決めるだけでオーダーが完結する。「ジン」+「トニックウォーター」というイメージのしやすさも魅力だ。


世界で最も多くの国で作られているスピリッツである点も大きな特徴。アントニックでは「好きな国」から何をオーダーするか決めていくというやり取りがよく見られる。

感性のままジャケ買いするのも楽しく、これは価格帯を均一にしながらも種類豊富に取り揃えられるジンならではの魅力だ。

今注目が高まっているノンアルコールジンも扱う

好きになったお酒をこだわりたいという人は多く、少しずつハイランクな品に手を出したくなるもの。例えばこれがウイスキーであれば価格が青天井、最高品質のものには中々手が出せないが、、ジンは熟成させないのが基本であるため高いものでもボトルで1万円程度。世界の高級ホテルや一流のバーに置かれているジンと同じ最高品質のものが比較的手軽に手に入れられる。若い方でも手が届きやすい範囲で熱中する楽しみ方もできるアイテムと言える。



アントニックのもう一つのこだわりが、「この店以外」での再現性。アントニックでの経験をきっかけに、他のバーにもチャレンジしてほしいため、ここで出会ったお気に入りのジンが他の店でも楽しめるのが最善と考えている。

そのため、ジンの品揃えはマニアックにしすぎず、他のバーやネットショップでも比較的見かけやすいものをチョイスしているのだ。


 

17時を周り、照明が暗くなり店内は爽やかな雰囲気から少々トーンダウン。可愛らしいキャンドルが出てきた。


2杯目はEMPRESS 1908というカナダのジン。アフタヌーンティーで有名なヴィクトリア州の老舗・フェアモントエンプレスホテルの創業100周年を祝して開発されたジンであり、魔法のジンとも称される珍しい特徴を持つ。


その特徴とは「色の変化」。藍染めかのようなインディゴブルーから、トニックウォーターで割ると色鮮やかに変化するという。


「この色の変化がSNS映えすると大人気なんです。でも見た目だけでなく、味もとっても美味しいんですよ」と、オーダーしたジンについて丁寧にストーリーを説明してくれるのが嬉しい。


トニックウォーターを入れると美しいピンク色に変化した。まさに魔法のような瞬間だ。

味わいはバラのような華やかな風味。蒸留した後に濃いブルーの元でもあるバタフライピーの花と、同ホテルのアフタヌーンティーの茶葉を漬け込んでおり、まさにお酒で作る紅茶のような一杯である。



 

一杯800円からと、バーとしては利用しやすい価格帯の店であるが、アントニックはシビアに自らのサービスの質を俯瞰している。


アントニックがターゲットとするバービギナーの方、ましてや若い方にとって一杯1000円前後のドリンクというのは決して安いものではない。500円あればカフェで美味しいコーヒーを飲め、居酒屋ならビールやハイボールをジョッキで飲める。1000円もあればボリュームたっぷりのランチを食べることもできる。

値段に見合う体験を提供できるかどうかが、嗜好品とも捉えられがちなバー文化が、次世代へ受け入れられるかの大きな分岐点だ。


同店ディレクターの武田光太氏は、洋酒のインポートメーカーに勤めていた頃から「酒好きの人たちの母数を増やさなければ」と酒業界への危機感を持っていたそうだ。

どれほど作り手や商品が増えようとも、それらはバーなどへ行く限られた客層へのアプローチ。パイを奪い合うだけであり業界全体としては発展していかない。


だからこそアントニックは、バービギナーが初めて訪れるバーとなるべく徹底的に条件を設計し、揃えてきた。若者が多く訪れ、あえてバー文化がまだ根付いていないここ中目黒にて、アントニックをきっかけに次なるバーにチャレンジしたくなるような体験を提供したい。


そのために、自らが提供する一杯に1000円以上の価値があるかどうか、日々考えサービス・接客に努めている。味のクオリティはもちろん、ジンが持つストーリーを伝え、彼らのジンへの愛も目一杯伝え、ただの透明な飲み物一杯を、訪れた人たちにとって忘れられない体験に変えること。

それこそがバーの魅力であり、その魅力に気づいてもらうことが彼らにとっての使命だ。



「初めてのバーはアントニックでした」と、未来のバーフリークが名店バーの扉をたたく日は、きっとすぐそこだ。


 

The World Gin&Tonic〔Antonic〕(アントニック)

東京都目黒区東山1-9-13

TEL 03-6303-1729

アクセス

 中目黒駅 徒歩9分

営業時間

 平日  17:00~23:00

 土日祝 13:00〜23:00

定休日

 水曜




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Writer & Photo
中島 祐哉(Yuya Nakashima)

BARのフォトライター、メディア運営。

2020年にポータルサイト「BARLD(バールド)」を設立。
普段バーを利用しない人にこそ魅力に触れてほしいと、バーやパブの美しい内観とストーリーに着目。都内を中心に自身が取材した60店舗以上を紹介し、名画のように切り取った写真と軽やかな文章で店の魅力を発信する。

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