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  • 執筆者の写真中島 祐哉

ニューヨークを想う夜/APOLLO BAR GINZA


銀座コリドー街のメインストリート、出会いのメッカとして変わらず賑わうこの地はオープンスタイルの飲食店が立ち並ぶ。

身を任せるまま朝まで楽しめる歓楽街だが、今夜はそんな喧騒を置いてきたかのように一転、落ち着きのあるバーとして評判の店へお邪魔する。




雑居ビルの階段を降り地下1階、扉を開いた瞬間、照明の暗さに驚かされる。


目が慣れる前に耳に飛び込んできたBGMはアメリカの殿堂ミュージシャンTom Waits。ロマンティックで重厚なピアノの音色と彼の嗄れた歌声が、一瞬の暗闇と溶け合い別世界に誘うかのように錯覚させられる。圧巻の空間演出だ。


店内は大理石のカウンターを基調としつつ、レンガやレザーソファが目を引くニューヨークスタイル。1名やカップルでの利用はもちろん、繁華街を楽しんだグループ客がクールダウンに使うような想定もされていそうだ。


筆者が訪れたのは平日早めの時間。常連と思しき男性客が2名ゆったりと楽しんでおり、奥のカウンター席へ案内してもらった。


「よろしければメニューをご覧になられますか?」と様子見がちな筆者へ案内してくれるマスター。銀座のバーといえばカチッとした白い制服のイメージがあるが、こちらは暗い店内に溶け込むような黒い制服を着ており、よりカジュアルな印象だ。声色から、優しいマスターであることがすぐ分かり安心する。


しかしこの薄暗さでメニューなど読めるのだろうか、、と思ったところに手渡されたのは小ぶりのペンライト。これで手元を照らしながらメニューを読んでいくという。ちょっとしたアトラクション感覚だ。


数ページにわたるメニューのうち、シグネイチャーとして紹介されているのは手作りのトニックウォーターやシロップを用いたスタンダードなロングカクテルたち。

手作りのトニックウォーターというのは珍しいと思い、ジントニックをオーダーした。


まず目を奪われたのは美しくカッティングされた氷。ダイヤモンドカットを思わせる柱型の氷に、炭酸の気泡が上がる様子が非常に奥ゆかしい。この氷を見るために海外から訪れる客もいるそうだ。

ジュエリーブランドのディレクターも唸る美しいカッティング

一口いただくと、トニックウォーターの甘みは控えめに、ライムの酸味が際立っているのが印象的。ジンの豊かな香りを感じやすく、飲み慣れていない人でもかなりスッキリと飲めるだろう。

併せて出してくれたのは石皿に乗せられたドライフルーツとチョコレート。つまみながら飲んでみると、なるほど、オレンジの香るチョコレートとジントニックのマリアージュがたまらない。自家製のトニックウォーターを使っているからこそ為せるペアリングだろうか。


 

APOLLOは暗い店内にライトで照らされたバックバーが印象的だ。酒瓶の高さがまだらで、どことなくピアノの鍵盤を思い出させる。

カラフルに見えるが、使っているライトの色味は全て同じ。商品ごとの自然の色味を活かしてマスターのセンスで並べているという。

琥珀色は人間に安らぎを与え、このディスプレイを気に入っているというマスター。ウイスキー同士でもこれだけ色味が異なるのは、熟成樽の違いによるもの。赤ワインやシェリーに使われていた樽で熟成したウイスキーは、より深い赤みになるという。



2杯目、筆者はウイスキーサイドカーをよく頼むのだが、たまには違うカクテルにも挑戦してみたい。こちらのマスターなら気兼ねなく伝えられると思い、「サイドカーではない、ウイスキーベースの甘めのカクテルを」とオーダーした。


そうして出されたのが、チェスナッツのマンハッタン。

マンハッタンは「カクテルの女王」と呼ばれる定番のカクテルだが、アルコール度数が高く少々辛口なイメージがあり、まだ挑戦したことがなかった。

コロンとした丸い持ち手のグラスに、暗い店内でもわかる鮮やかな赤色が美しい。


飲んでみると、まろやかな口当たりに濃密で深い甘み。甘みはウイスキーをベースにしながらベルモットやシロップが混ざり合い深みを出しているのが感じられる。

もう少しドライな仕上がりにするマンハッタンも多いようだが、甘めのカクテルと伝えたのでチェスナッツの甘みを足して作ってくれたようだ。

女王の名に相応しい艶やかな見た目

ショートカクテルは温度が変わる前にサッと飲み切る方が好ましいと言われる。筆者は酒のペースが遅いためその点を気にしていたら、「早く飲んでくれなんていうのはバーテンダー側の勝手な都合なんですよ」と笑いながら話してくれた。


マスター曰く、カクテルの美味しさというのはレシピや温度といった要素はもちろん関係あれど、いかによく混ざっているかが大きなポイントであるという。

地域によっては焼酎の「前割り」という飲み方があるらしい。これは焼酎と水を前日までに混ぜて寝かせておくことで焼酎と水がしっかりと馴染み、通常の飲み方よりも格段に美味しくなるという楽しみ方だ。美味しさに気づいたのが先か、はたまた給仕をする女性たちが効率を求めた結果か発祥はわからないが、割りものの美味しさの秘訣を端的に表していると言えよう。


とはいえバーで前割りをするわけにはいかないため、、やはりバーテンダーによるミキシングの腕の見せ所。喋っている時の柔和な表情から一転、職人の表情に変わるカクテル作りの時間は、正統的なバーでこそ味わえる贅沢さだ。



 

バー業界に長年携わり、プレイヤーの立場も指導者の立場も経験してきたというマスター。自らのバーを「APOLLO」と名付けたのは、バービギナーが訪れバーの世界を知るに相応しいお店にしたいという想いから来ている。


ニューヨークでは毎週水曜、アマチュアのミュージシャンが競い合う「アマチュアナイト」というイベントが開催されている。かのスティービーワンダーも輩出した権威あるイベントだが、その開催場所こそがニューヨークのアポロシアター。

同店もバーの世界のアポロシアターとして、初めてのお客様が訪れ、バーでは色々な過ごし方をして良いのだと知ってもらい、使い勝手や魅力を体験してもらうエントリーの場としたいのだという。


さらに奇しくもアポロ号が月を訪れた1968年は、マスターの生まれ年。


運命的な店名を体現するようなマスターの優しくユーモアある接客で、今日もまた一人銀座の夜に新たな魅力を見つけ、街に溶けて行く。


 

APOLLO BAR GINZA(アポロ)


東京都中央区銀座8-2-15明興ビルB1F

TEL 03-6280-6282

アクセス

 新橋駅徒歩3分、銀座駅徒歩7分

営業時間

 月〜金 17:00〜26:00(25:00L.O.)

 土   17:00〜24:00(23:30L.O.)

定休日

 日曜・祝日





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