洗練された大人達の街・恵比寿を包囲する3つの名店。
世界の酒・バー文化を発信する人気店の秘密に迫る。
恵比寿駅西口の賑わいを背に3分ほど、種々の飲食店が軒を連ねる中、ある店が目に止まった。
「BAR TRIAD」と格調高い雰囲気の看板に、テイストマップなるメニュー表が一つ。豊富なカクテルを提供するバーであろうことが伝わってくる。
誘われるままビルの中へ向かうと、年代物マンションの一室のような異様な入り口。果たして正しい入り口なのか、戸惑いながらもドアを開けるとそこはエレベーターホール。ボタンを押し待っていると、少し離れた場所から洋楽と人の話し声が聞こえてきた。
疑問符をいくつも浮かべながらエレベーターのドアが開かれると、その正体に納得。デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」が流れていた。彼の語りかけるような歌声が話し声のように聞こえただけであった。
たまたまとは思うが、エレベーターに乗ったのに合わせてサビの部分が流れ、ワクワクする気持ちが一気に高まる。アミューズメントパークに来たかのような感覚だ。
店内に到着すると、一転して静かで落ち着いた雰囲気。重厚感ある暗めの店内に大理石のバーカウンターがよく映える。奥にはテーブル席が広がり、数組の女性客が利用していた。
カウンターに案内してもらい、下で見たテイストマップのメニューが渡される。
Sweet vs Dry、Light vs Strong の4軸でお店オススメのカクテルがマッピングされている。バーといえば「こんな味のイメージで」とオーダーするシーンがよく見られるが、より言語化されたイメージで頼むことができるようだ。
ロンググラスでゆっくりと甘めのカクテルを楽しみたかったため、バナナハイボールをオーダーした。
バナナ感のある深いブラウン色が可愛らしい。
口にすると、初めはバナナリキュールらしい甘みとハーブの香りのマリアージュ、その後ジャックダニエルのふくよかな香りに変わっていく。口の中で味わいが変化する不思議な感覚が癖になり、どんどん飲み進めてしまう一杯だ。
バーボンの定番、ジャックダニエルは「バナナのような香り」と評されるそうで、バナナリキュールとは相性が良いのだという。そこにハーブの香りを足すのがトライアド流。高品質なオーガニックリキュール、スクラッピーズ・ビターズによるほろ苦さが、味わいにグンと深みと楽しさを加えてくれる。
ビターズに限らず、カウンター奥にはあまり見かけたことのないリキュールがいくつも置いてある。
尋ねてみると、トライアドは同じく恵比寿に構える世界的な名店、Bar TRENCH(トレンチ)のグループ店とのこと。初めてオープンさせたのがBar Tram(トラム)というクラシカルテイストの店舗で、2店舗目がTRENCH、そして3店舗目が2017年にオープンしたここTRIADだ。
お気づきの通り3店舗とも頭文字が「TR」。それぞれテーマに沿った店名を与えられており、TRIADの出店により恵比寿を包囲する三角地帯が出来上がった。
そしてバー事業と並行して行っているのが酒の輸入販売。
例えばFAIRはフランス産のスピリッツだが、その名の通りフェアトレードで取引された原料を使用し製造されている。酒を飲みつつ途上国の発展に寄与できるわけだ。
Monkey Ginは今でこそ日本でもその権威が定着しているが、当時まだ日本にクラフトジンという言葉がなかった頃に彼らが初めて輸入したものだという。
酒の輸入販売とバー事業を運営する中で、日本の消費者に、お酒をより親しんでもらうにはどういった物が良いのかを常に考え続けているという。
店内は華やかで高級感がありながらも、広めに用意されたテーブルスペースのおかげかリラックスして過ごせる雰囲気となっている。テーブルチャージがなく一杯からでも利用しやすいのが魅力だ。店内は禁煙のため、タバコが苦手な方でも気にならない。(ちなみにテラス席で喫煙が可能)
これらはバーに慣れていない方にも安心して使ってもらいたいというトライアドのコンセプトを体現したものだ。先ほど紹介した、カクテルを視覚的に頼めるテイストマップも、もちろんその心遣いの一つ。
それゆえ、バーを初めて利用するという方も多く訪れているようで、若いカップルの姿も見られた。
内装のテーマは、ヨーロッパの昔の駅。バーにしては珍しく、入り口近くに大きな時計が掛けてある。海外では身近な存在であるバーを、日本でも日常的に味わって欲しいという。その演出に一役買っているわけだ。
2杯目は辛口の代名詞、ドライマティーニをオーダー。
Tanqueray(タンカレー)No.10という、シトラス感を楽しめるプレミアム・ジンがベースだ。
香りの良さに惹かれてスッと飲んでしまったら、強烈なジンとビターズのインパクトに思わずクラッと来てしまった。
ちなみにマティーニはジンとベルモット(ハーブやスパイスで香り付けした白ワイン)のカクテルだが、スタンダードな配合よりもジンの割合が増えたものをドライマティーニという。ジンが増えた分、より辛口に仕上がるのが特徴だ。
トライアドでは、スタンダードカクテルから実験的なオリジナルメニューまで、誰もがお気に入りを見つけることができるよう豊富な種類のカクテルを提供している。
いかにして新しいカクテルを生み出すのか、と尋ねたところ、カクテルの開発は料理作りに似ているという。料理をする方なら、材料と調味料の組み合わせである程度味の想像が付くだろう。一流のバーテンダーはその感覚が酒やフルーツの組み合わせで染み付いており、即興のカクテルであってもベースの味わいがイメージできるそうだ。もちろんセオリーだけでなく、温度や混ぜ方、香りづけの仕方など作り手によって個性とこだわりが加わっていく。
一流のシェフ、パティシエなどと同じように、バーテンダー、カクテル作りの世界もまた奥深い。
とんでもないのが出来上がる時も結構あるんですよ、と笑いながらに話してくれたが、納得のいく作品が出来上がっているからこその笑い話。そのようなバーテンダーたちの努力の積み重ね・試行錯誤があり、我々の元に美味しいカクテルが届けられている。
Bar TRIAD(トライアド)
東京都渋谷区恵比寿西1-4-1ウチノビル4F
TEL 03-6416-4177
アクセス
恵比寿駅西口 徒歩5分
営業時間
19:00~26:00
定休日
日曜・祝日
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